QEマネー回収を急ぐ米国、せかす中露

QT本格化前に、あの回収奇策が大膨張。QE4マネーは47.5%回収済み

2022年7月4日(月)アナリスト工房

米連銀FRBの量的緩和QEの後始末は、先月から始まった量的引き締めQT(FRBが過去のQEで買い取った金融商品を満期継続停止あるいは売却することにより、市場からQEマネーを回収してゆく引き締め策)が、先週6月29日までわずか0.02兆ドルの実施と、出だし低調だった。その点を好感した米国債市場では先週、10年物の利回りが一時2.791%まで低下し、価格が大きく反発した。

一方、QEマネー回収の最重要手段リバースレポ(FRBが米国債を担保にNY市場の金融機関から翌日物資金借り入れ)は、6月末には2.33兆ドルと、わずか1週間前に記録した過去最高記録を勢いよく更新した。21年3月からFRBが毎日実施中のリバースレポは、ほぼ一貫して激増傾向であることから、FRBがQEで市場へバラまいた巨額マネーのいちばんの回収策と化している(図表)。

結果、アメリカのQE4(19年10月-22年3月上旬の量的緩和第4弾)のマネー4.95兆ドルは、QTとリバースレポ(上記)により早くも47.5%回収済み(=(0.02兆ドル+2.33兆ドル)/4.95兆ドル)。FRBは米国債へのQT悪影響に細心の注意を払いながら、資金回収を非常に急ぐ姿勢がとても鮮明だ。

満期時にドル資金で償還される米国債は、将来のドル資金。米国債価格が急落し続けた場合には、やがてドル急落を招く危険が高い。ドル通貨の番人FRBは、市中の1米ドルあたりの通貨価値を将来も保ち続けるために、米国債への悪影響が大きな量的引き締め策QTよりもリバースレポ膨張の奇策を最大限駆使しながら、とにかく資金回収をなりふり構わず急いでいる。

米連銀FRBの資産構成】 6月29日時点


・QE対象資産:8.53兆ドル(うちQE4が4.93兆ドルと過半:*)

(対象資産の主な内訳は、米国債5.76兆ドルとMBS2.71兆ドル)

・その他の資産:0.38兆ドル

・資産合計:8.91兆ドル


FRB週次公表データに基づく

奇策の得意なパウエル議長のFRBによるドル資金回収が奏功し、為替市場の米ドルは、同じ西側の他の主要2通貨に対し著しく上昇中。リバースレポ駆使の米ドルの年初来上昇率は、7月1日にようやくQEを終えた欧州ユーロに対し11.9%、思考停止状態のままマンネリ緩和継続中の日本円に対し17.5%(7月1日時点)。

基軸通貨の米ドル高に伴い、アメリカ発の過度のインフレが欧州だけでなく日本にも上陸し、西側の主要国は物価高騰(とくにエネルギー)の経済悪影響を被っている。ドル高の経済メリットを享受できている国々は、インフレ輸出国アメリカをはじめどこにも見当たらない。西側諸国はFRBドル回収に伴う過度のインフレ状態に悩まされている。

▼舞台裏では、「金1g=3000ルーブル=400元」の金本位試行が絶好調

西側の主要通貨のなかで最強の米ドルは、一方でロシアルーブルに対しなんと年初来27.0%急落中(7月1日時点)。ドル急落・ルーブル高騰の舞台裏では、米欧の悲惨なQE後始末をきっかけに、お金を大量に刷ってバラまき失敗したいまのペーパーマネーの国際通貨制度を、お金の価値が貴金属に裏付けられる金本位制へ移行する取り組みがロシア主導で推進中。

ロシア中銀の金本位推進は、3月下旬に金融機関から金1グラムあたり5000ルーブルの固定価格で買い取ることにより、通貨価値を裏付ける金準備(外貨準備に占める金)をさらに充実させながら本格化させた。

ルーブル通貨の番人は、当初の目標(金1グラムあたり5000ルーブル)をしばらく保ち、通貨価値の安定性を取り戻した。以降、勢いづいた番人たちは、よりルーブル高の目標水準を次々と引き上げ(金1グラムあたりの目標は、4月下旬から4000ルーブル、5月中旬から3600ルーブル、6月中旬から3200ルーブル)、それぞれの水準を保つトライアルを実施中と見受けられる。6月29、30日には、一時さらに高い目標(金1グラムあたり3000ルーブル)に挑んだ積極姿勢が観察され、為替市場で高く評価された(図表)。

モスクワUSD/RUBとNY金先物中心限月の終値に基づき作成

結果、6月29日のルーブルの対米ドルレートは、一時1ドル=50.1006ルーブルと2015年4月以来のルーブル高水準。


金連動トライアル順調のほかにルーブル高のもう1つの主な要因は、ロシアのウクライナ侵攻に伴い対ロ制裁に踏み切ったはずのEUが、天然ガス輸出首位のロシア以外の国々からのガス調達困難な現実に直面し、ロシア産ガスを対ロ制裁により高騰した価格で購入し続けるしかない実態である。

EUのロシアへのガス代金の支払通貨は、従来が主にユーロだったが、いまはロシアの要求どおりすっかりルーブル。エネルギー取引での決済需要激増がルーブル価格をさらに押し上げている。対ロ制裁は、制裁の担い手であるはずの西側のEUを自虐的に痛めつける内容と化しているのが実情。


ロシアが金本位に踏み切るときは、貿易決済でのドル外しに共同で長年取り組んできた指南役の中国ももちろん一緒。2018年に金1オンスあたり8200元での金連動リハーサルを見事成功させた中国は、実はすでに金本位のもとで為替水準をコントロールするノウハウを修得済み(中国元の金連動リハ成功と次の一手)。

今年3月9日以降の中国元は、金1グラムあたり391〜411元と、約400元を中心にとても安定的に推移中(図表)。

上海市場の中国元(CNY)とNY金先物中心限月の終値に基づき作成

中国元の為替水準を市場に委ねず細かくコントロールしている通貨当局は、金価格の上下に合わせ元の通貨価値を上下させることにより、金1グラムあたり400元での金連動リハーサルを実施中と見受けられる。上海ロックダウンの実施および解除のときでさえ、金連動を保つのにズバリ絶妙なタイミングだったのは恐れ入りました。


中ロ勢が金本位制へ正式に移行するときは、ペーパーマネー制の西側諸国も、通貨価値の暴落を防ぐためには、貴金属で通貨価値を裏付けるしか選択肢がない。大規模QEを長く続けたアメリカが貴金属本位へ移行するときは、金・銀などで価値を裏付けられる資金量に限りがあるため、市場から大半の資金を回収し資金量を適正化しなければならない。

だからこそ米連銀FRBは、QT(量的引き締め)が本格化する前からリバースレポの奇策により、大急ぎで大規模資金回収に励む姿勢がとても鮮明。だが、「備えあれば憂なし」は、西側ではやはり奇策の得意なパウエル議長のFRBだけしか見当たらない。

アナリスト工房 2022年7月4日(月)記事