金連動通貨急騰の舞台裏は米ドル急落

金1g=7800円の試行は依然順調。金爆買いの中国の貿易収支は過去最高

2023年1月16日(月)アナリスト工房

先週、米ドル以外の主要通貨(とくに日本円、中国元、欧州ユーロ)が軒並み大きく反発し、昨年落とした通貨価値をずいぶん取り戻した。舞台裏では、金本位制への準備を本格化した中銀勢の旺盛なゴールド買いに伴い、金価格が急騰している。新たな通貨制度への移行に備え、アメリカ以外の主要国(とくに日、中)は通貨価値を金価格と連動させるトライアルを実施してきた。


・日本円は13日、1米ドルあたり一時127.46円と昨年5月以来の円高水準まで大きく回復。輸入物価高騰による過度の悪性インフレへの懸念は、ひとまず後退した。

実施中の金連動トライアルのなかで、最も上手なのが日本円。昨年4月中旬から、金1グラムあたり7800円を中心に、狭いレンジ内での推移を依然しっかり保ち続けている(図表)。

NY市場の金先物中心限月とドル円の終値に基づく

昨年10月の為替市場で1ドルあたり一時151.94円まで超円安に振れたときも、その最悪な水準から19.2%反発した先週も、金に対する円相場はおおむね一定水準のままでほとんど揺るぎない。

とても順調な日本円の金連動トライアルを担うのは、9-10月の為替介入を決断した財務省だけではない。政策に協力的な国内外のビックプレイヤーの存在も、為替の値動きから伺い知れる。


・中国元(上海市場のCNY)は先週13日、1米ドルあたり一時6.7005元と22年7月以来の元高水準まで回復。同日公表された2022通年の中国貿易統計は、輸出が輸入よりも大きく伸びた結果、為替水準を大きく左右する重要指標の貿易収支が過去最高だった前年を31.2%上回った。

<中国貿易統計2022年1-12月> 1月13日公表

・輸出:23兆9654億元(前年比10.5%増)

・輸入:18兆1024億元(前年比4.3%増)

・貿易収支:5兆8630億元(前年比31.2%増)

2018年に金1オンス(31.1035グラム)あたり8200元での金連動リハーサルを見事成功させて以降の中国の通貨当局は、金本位のもとで為替水準をコントロールするノウハウをしっかり修得済み。ロシアのウクライナ侵攻直後に実施した金1グラムあたり400元での金連動トライアル(22年3月上旬-6月下旬)は極めて安定的で順調だった。(下図)。

上海市場の中国元(CNY)とNY金先物中心限月の終値に基づく

今年7-9月の世界の中央銀行の金購入量約400トンに占める、国名を明かさない中銀勢の取引は75%。匿名取引の大部分は、外貨準備高No.1で資金潤沢な中国の中銀であるとの市場観測が強い(ゴールド爆買い観測 金本位の前兆か?)。

また、中国の金準備(外貨準備に占める金)は、11月が前月末に対し32トン増、12月末がさらに30トン増。金の爆買いが1米ドルあたりの金相場を急騰させたのが、ドル急落の大きな原因の1つ


・欧州ユーロは先週13日、1ユーロあたり一時1.0868米ドルと昨年4月以来のユーロ高水準まで著しく回復した。とはいえ、ウクライナ侵攻後のロシアに受け取り拒否されたときに突きつけられた課題(実物資産で通貨価値を裏付けよ!:下記)に真剣に取り組む姿勢がまだまだ伺い知れない。金1グラムあたりのユーロ価格は、まだまだ不安定だ。

「一極集中の世界秩序の時代は終わった。(中略)価値を失った米ドルや欧州ユーロ建てでは、商品を売りたくない。見かけ倒しで幻の世界経済は、真の価値をもつ実物資産に裏付けられた経済に置き換わってゆく」

プーチン露大統領(Jun 17th 2022)ペテルブルグ世界経済フォーラム

結果、西側主要国では、日本円だけが金連動トライアルの実験材料となっている。為替市場のビッグプレイヤーは、対円取引で金連動トライアルの政策に協力しながら、金本位のもとでのノウハウ習得に励んでいる。

一方、米債務上限引き上げは、トランプ氏の影響力躍進した下院が難関

国際通貨制度が金本位制へ移行するきっかけは、中ロ勢が金本位宣言とともに貴金属での価値裏付けのない通貨受け取り拒否に踏み切ることとは限らない。いまのペーパーマネー制は、基軸通貨ドルの発行国アメリカが国家デフォルトした場合には、もちろん機能しなくなり終わる。

イエレン米財務長官がマッカーシー下院議長(共和党)へ先週送った書簡によると、アメリカ連邦政府の債務残高は今週19日、法定上限(いまは31.38兆ドル)に達する予定。資金繰り操作により6月上旬まではしのげる可能性が濃厚だが、7月以後は厳しい状況が伺い知れる。


アメリカの政府債務上限の引き上げは、議会承認が必要。だが、イエレン氏の書簡送り先マッカーシー氏は、1月上旬の下院議長選でトランプ派の共和党議員たち(ゲーツ氏など)の支持がなかなか十分に得られず、トランプ氏の影響力に助けてもらった後、なんと15回めの投票でようやく下院議長に選出された。

共和党議員が過半を占めるマッカーシー議長の下院が取り組み実現すべきことのなかには、債務上限引き上げ断固阻止が含まれているかもしれません(ドル急落の大きな原因のもう1つ)

「とくにトランプ大統領に感謝したい。彼の影響力を疑う者は、誰もいないと思う。初めから私の味方だった彼と昨夜電話で話し合い、最終的な得票を得るのを助けてくれた。(中略)われわれが取り組むべきことはたくさんあり、彼はそのすべてを実現するために偉大な影響力を発揮してくれた。トランプ大統領、本当にありがとう!」

マッカーシー米下院議長(Jan 7th 2023)再選直後の記者会見

やはり債務上限問題をきっかけに、トランプ氏の影響力が強い共和党は、バイデン氏の民主党の放漫財政に譲歩しないタフな姿勢を取り戻せるかもしれません。金本位制への準備は急いで進める必要がありそうだ。

「債務上限が近づいてきた。共和党員は、マコネル(上院院内総務)が過激左翼(民主党)へ明け渡してまったものを、もうすぐ取り戻せる。タフになれ、譲歩するな。アメリカ第1だ!」

トランプ45代米大統領(Jan 15th 2023)Truth Social

アナリスト工房 2023年1月16日(月)記事