通貨オブ・ザ・イヤー2014はルーブル

ロシア通貨急落の舞台裏は、米シェールバブル崩壊と信用収縮の兆し

2014年12月25日(木)

アナリスト工房の"通貨オブ・ザ・イヤー"では、その年の世界でいちばんの注目に値する通貨が選ばれます。

昨年の受賞は、主要国通貨のなかで最も大きく価値を下げるとともに日本経済を過度の為替リスクにさらすようになった、わが国の円です(通貨オブ・ザ・イヤー2013)。

今年も最終月の上旬までは、10月末からの日銀の追加緩和後にいっそうリスクを高めた、円が最有力候補でした(サッサと終えたい日本の量的緩和)。

ところが今月中旬になって、ロシアの通貨ルーブルが投機筋にいきなり激しく売り浴びせられました。明白な根拠がない(詳しくは後述)にもかかわらずです。

結果、通貨オブ・ザ・イヤー2014は、年初来の下落率No.1の座に祭り上げられたルーブルに決定します!

【主な通貨の年初来の価格変化率(対米ドル)】 12月24日時点

・ロシアルーブル : ▲38.9% ・豪ドル : ▲9.1%

・日本円 : ▲12.6% ・英ポンド : ▲6.0%

・ブラジルレアル : ▲12.3% ・人民元 : ▲2.6%

・ユーロ : ▲11.3% ・インドルピー : ▲2.4%

注目を集めているルーブル相場は、原油価格が高値圏にあった9 月までは1ドル当たり32−39ルーブル台でおおむね安定的でしたが、10月からは油価反落(NY市場のWTI原油:6月につけた高値107ドル台→足元55ドル台)とともに弱含んでいます。

今月は米系ヘッジファンドなどの標的となり、「ロシア危機(1998年のロシア国デフォルト)の再来が懸念される」と称され、15・16日のわずか2日間でなんと14%も急落。一時79.2ルーブルの安値をつけました。

原油輸出額首位のロシア経済は原油市況に左右されるとはいえ、たかが50数ドル程度への油価下落をその国家デフォルトに結びつけるのは早計です。

なぜなら、ロシア危機が生じた1998年当時の油価はわずか14ドル(年平均)。いまよりもはるかに低水準でした。

また、当時のロシアの外貨準備高と経常収支がほぼゼロに対し、いまは外貨準備高4,180億ドル(12月1日時点)、経常黒字328億ドル(2013年)。危機が収まった後の同国は、エネルギーの輸出を大きく伸ばしているため、貯蓄も稼ぎもまずまずです。

さらに、ロシアの政府債務残高のGDPに対する比率は14%(2013年)と良好。この重要なカントリー・リスク指標でみても、同国がデフォルトする可能性はほとんどないといえましょう。

以上のように経済基盤のしっかりした国の通貨を売り浴びせても、その国をデフォルトさせるのは、大きな無理があるのです。

ちなみに足元は、ロシア中央銀行のルーブル買い介入(15日は20億ドル相当)と政策金利引き上げでの通貨防衛が効いてきたのと、中国からの通貨スワップ協定(*)拡充の申し出をきっかけに、1ドル当たり53ルーブル台まで大幅に反発しています。

そもそも12月上旬までは、油価が弱含むにつれて大きな懸念を集めていたのは、原油輸出大国のロシアでなく、高コスト体質の米国のシェールオイル産業でした。

1バレル当たりの生産コストは、地中から油を汲み上げる通常の原油事業が5-6ドル(サウジアラビアの場合)に対し、岩に染みこんでいる油を薬品を用いて取り出すシェールオイル事業がなんと平均65-70ドル。

生産効率の悪いシェールオイル産業は、いまの油価のもとでは深刻な赤字操業と見受けられます。

また、総じて財務体質の悪いシェールオイル会社は、膨大な設備資金を調達するために、ジャンク債(低格付けの高利回り債)を発行しています。その業界(エネルギー)は、米国ジャンク債市場の発行残高1.5兆ドルの17%も占める最大勢力です。

原油市況の低迷が続いた場合には、シェールバブルの崩壊とともにジャンク債のデフォルトが続出し、信用収縮(信用リスクに敏感となった投資マネーが信用力高い国債以外の金融商品から逃げてゆく現象)が懸念されます。

ちなみに1998年のロシア危機での信用収縮時には、米国最大のヘッジファンドLTCMが新興国債券の価値急落に伴う巨額損失を被って行き詰まり、わが国では日本長期信用銀行(いまの新生銀行)をはじめ多くの金融機関が破綻しました。

米ロ間の金融ガチンコバトルは、まだまだ終わりそうにありません。どちらが負けても米国発あるいはロシア発の信用収縮が金融危機を招く危険があるため、予断を許さない状況がしばらく続きそうです。

株式会社アナリスト工房

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*)通貨スワップ協定は、国と国との間で通貨を貸借できる取り決め。金融危機などが生じた際には、自国の通貨を相手国へ預入れることと引換えに、相手国の通貨を借入れることができる。