通貨オブ・ザ・イヤー2013:円でしょ

2013年12月20日(金)

「世の中がまともでなく、しかもその傾向をひきとめることができなければ、ますますひどい世の中になるだろう。」

-陳舜臣 著『諸葛孔明』中央公論社-

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アナリスト工房の「通貨オブ・ザ・イヤー」では、その年の世界で一番の注目に値する通貨が選ばれます。

これまでの受賞通貨は、昨年がスペインの不良債権問題を嫌気され一時94.12円まで急落した欧州のユーロ、一昨年(2011年)がデフォルト騒動のあげく75.32円の戦後最安値をつけた米国のドルでした。

今年の通貨オブ・ザ・イヤー2013は、これまで欧米が先行していた先進国の間での「通貨安競争」で初勝利したわが国の通貨「円」に決定です!

円は、基軸通貨のドルに対し年初から16%も急落しています(12月19日現在:図表上側)。主要国・地域の通貨の中で著しく価値を下げた理由は、日本の金融政策と対外証券投資が円安を強く押し進めていることです。

まず、日銀の量的緩和に伴う市中への資金供給により、わが国のマネーサプライ(通貨供給量)のベースとなるベースマネー(現金と中央銀行預け金:M0)は、今年は11月までに58兆円(=190-132)も急増(*:図表下側)。M2(現預金)でみたマネーサプライは、27兆円(=855-828)増えました。

マネーサプライの増加に伴う1円当たりの通貨価値低下が、従来の円高基調にひとまず歯止めを掛け、円安への反転を促したのです。

また、足元の対外証券投資の積極化も、円の下落の大きな原因です。

10月第2週から12月第2週(10/6-12/14)は、日本から海外の中長期債への投資額の純増が続き、わが国からの資金流出は計5.8兆円に達しました(**)。

投資対象の中長期債の中心は、発行額世界一の米国債です。そのドル建ての債券を購入する際の円売り・ドル買い取引が、円安・ドル高へ作用するのです。

なお、上記期間には米国デフォルト騒動のピーク時も含まれることから、足元の投資活動はドルと米国債の買い支えが目的と見受けられます。

日本の政策と対外投資が円安を進めた結果、強い副作用も生じてきました。

円の急落により、10・11月の貿易赤字が2カ月連続で1兆円を超え、しかもその赤字額が拡大傾向にあります。

火力発電燃料の輸入コストがいっそう膨らんでいることに加え、輸出の数量もその外貨建て単価も伸び悩んでいるからです。また、今の輸出企業は輸出よりも現地生産が主体なので、円安は貿易収支の改善にあまり寄与しません。

また、日本の来年度の国債発行予定額は180兆円程度(今年度よりも約10兆円増)へ膨らむ方向で計画中。わが国がワースト1の債務指標「GDPに対する政府債務残高」は、足元の2.4倍から一段と悪化する見込みです。

極めて深刻な「双子の赤字」を抱えているにもかかわらず、投資資金が大量流出を続けた場合には、国債を消化できなくなった国家はいずれ破綻します。

12月18日、FRB(米国の中央銀行)はQE3(量的緩和の第3弾:2012年9月-)の縮小を公表。

現在は月々850億ドルの米国債などの買取りでもって実施中の資金供給を、年明けの1月は750億ドルに減らし、2014年後半までに終える方針を示しました。

これまで日本国債は、国内勢が9割以上を消化しています。国の財政を支えるその貴重な資金を米国債の買い支えに振り向けようとは、とんでもない話ですね。

来たる2014年は、まともでない由々しき傾向をひきとめ、ひどい世の中になるのを防ぐ年であることを願っています。

株式会社アナリスト工房

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*)量的緩和とは、中央銀行が市中で国債を買取ることによる資金供給をいいます。中央銀行の買取資金は、「プリントマネー(国の経済力に見合わない大量の通貨発行)」によるものです。その市中への支払いは、中央銀行預け金の増加を通じて、ベースマネーを増やす要因となります。

**)対外証券投資の数字は、財務省が12月19日に更新した「対外・対内証券投資の推移」に基づく。