通貨オブザイヤー2017はビットコイン

常識を超えた超ハイリスクなネット通貨のとんでもない正体と展望

2017年12月11日(月)アナリスト工房

(2017年12月19日(火)編集)

弊社アナリスト工房の「通貨オブザイヤー」では、海外投資・外国為替・国際情勢などの分析に携わるアナリストにとって、その年いちばんの注目に値する通貨が選ばれます。

昨2016年の受賞通貨は、深刻なシリア騒乱のもと西側のNATO(北大西洋条約機構)と東側の軍事覇権国ロシアとの間で板ばさみとなった、トルコとともに大きく揺れたその通貨リラでした(通貨オブザイヤー2016はトルコリラ)。

なお、今年11月のNATO軍事演習では、ロシア・イランとの連携を強めるトルコのエルドアン大統領がなんと敵として掲示されました。激怒したエルドアン氏は演習に参加していたトルコ兵40人を撤収。欧米との溝が深まるにつれ、過度のインフレ(11月の消費者物価指数は前年同月比13.0%上昇)に悩むトルコの通貨価値は、西側の結束力とともにますます低下しています(図表)。

【年初来の価格変化率(対米ドル)】 2017年12月8日時点(*)

ビットコイン:1,541.8% ・人民元: 4.9%

・ユーロ: 11.9% ・カナダドル: 4.6%

・メキシコペソ: 9.5% ・ロシアルーブル: 4.1%

・英ポンド: 8.5% ・日本円: 3.1%

・金(ゴールド): 8.4% ・ブラジルレアル:-1.2%

・インドルピー: 5.4% ・トルコリラ: -8.1%

今年の通貨オブザイヤー2017は、FRB(アメリカ中銀)の金融引き締めがドル防衛に苦戦するなかで神通力が失われた基軸通貨ドルに対し、年初来なんと1,542%も価値が急伸している仮想通貨(暗号通貨)”ビットコイン”に決定です!

なお昨日、ビットコインの先物取引がCBOE(シカゴ・オプション取引所)でスタートしました。来週18日からは、CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)にもビットコイン先物が上場されます。

▼揺らぐ主要通貨から逃げたマネーが仮想通貨の希少価値をつり上げ

筆者にとってビットコインといえば、2014年にその最大規模の取引所を運営していたマウントゴックス社(東京渋谷)が85万ビットコイン(当時は480億円相当)を横領した「ビットコイン消失事件」の直後に、通貨価値がそれまでの最高値からなんと9割も暴落したことが記憶に新しい。

当時は、同社の社内システムが不正操作され、取引履歴なしにビットコインをたっぷり貯め込んだ口座が偽造されたのです。その仮想通貨が円・ドルなどの法定通貨へ換金されたことによる「仮想通貨売り・法定通貨買い」を通じて、ビットコインの通貨価値の大部分が吹っ飛んでしまいました。

ビットコインの”ブロックチェーン(分散型台帳)”の技術は、外部からの不正侵入による台帳の改ざんを防ぐ効果があるが、本件のように内部犯行でしかも台帳作成前の取引偽造には対応できなかったのです。

その後、金融政策に苦戦する主要国の法定通貨が心もとないなか、仮想通貨は力強い上昇力を取り戻しました。ドルに対するビットコインの年間上昇率は、2015年が35%、2016年が125%。

2017年の対ドルのビットコイン相場は、11月末までに年初来925%上昇した後、ビットコイン先物のCMEとCBOEへの上場決定が好感され一時なんと年初来1,675%高の水準にまで暴騰しています(12月8日時点:*)。

このようにビットコイン高・ドル安が極めて急激な背景には、仮想通貨と法定通貨の市場規模の著しい格差があります。

足元の通貨発行量は、ドルが14兆ドル(M2:中央銀行預け金を除く現預金)に対し、ビットコインがわずか2,600億ドル相当(16.5百万ビットコイン)にすぎない。相次ぐ利上げでも通貨防衛できない法定通貨を嫌気して逃げた大量のマネーの一部が、市場規模のかなり小さな仮想通貨に向かいその価格を大きく押し上げているのです。

「デフォルト騒動」を繰り返すアメリカの深刻な政府債務問題が改善しない限り、資金逃避先としてのビットコインへの需要は根強い

▼ビットコインのリスクは円相場の20倍超、リターンは宝くじとは逆に+

一方、1日のうちに2割急落することも茶飯事の仮想通貨は、無秩序で不安定かつ不透明な価格形成を改善することが大きな課題。そんな危うい通貨の先物取引を認可したCFTC(米先物取引委員会)は、先物が対象とするビットコイン通貨の取引・価格の監視体制に限界があるなか、市場参加者へ未発達な仮想通貨市場の高いリスクに注意を促しています(下記)。

「市場参加者が注意すべきことは、未発達なビットコインの通貨市場と取引所が無秩序なままであり、CFTCの法的権限が限られることだ」

「われわれは、情報共有の合意に基づき、先物取引所が先物価格形成へ影響を及ぼすその仮想通貨の取引実態を(相場操縦、瞬間的な暴騰・暴落、取引停止に伴う市場の混乱の可能性も含め)監視していくことを期待したい。投資家はこれらの取引の価格変動とリスクが高いことを認識すべきだ

ジャンカルロCFTC委員長(Dec 1st 2017)CFTCプレスリリース

収益率の標準偏差(バラツキ度:**)でみたリスクの大きさは、対ドルの主要通貨が8〜10%(ユーロ/ドルが8.0%、ドル/円が10.0%)に対し、仮想通貨ビットコインがなんと226%。

リスク資産の株式(S&P500のリスクは9.4%)をはるかに上回る超ハイリスクのビットコインは、リスクが悪い方向に大きく振れた場合には通貨価値の大部分が失われる可能性が高いため、ポートフォリオの一定以上の割合を占める主力資産としての運用にはもちろん不向きです。

一方、ビットコインの期待リターン(過去の経験則から平均的に見込まれる収益率:***)は242%。超ハイリスク仲間の宝くじ(くじ購入資金の半分が公共事業や経費に費やされるため、期待リターンがマイナス50%)との比較では、超ハイリターンでパフォーマンス良好なビットコインに軍配です。

その仮想通貨を資産運用に活用する場合には、ポートフォリオの数%以下の資金配分にとどめると、ポートフォリオ全体のリスクを抑えながらリターンを大きく向上させる効果が期待できます。

▼仮想通貨が実物資産に裏づけられる新たな動きに注目!

先週、ベネズエラのマドロ大統領は、アメリカによる経済制裁を受けてドル資金の受払いがままならない現状を打開するために、原油に価値を裏づけられた仮想通貨”ペトロ”を導入することを公表(下記)。

「近いうちに私は、オリノコベルト油田の数千バレルの原油に裏付られた、仮想通貨”ペトロ”の証明書に署名する」

ベネズエラのマドロ大統領(Dec 5th 2017)国営テレビでの声明

今年8月、マドロ氏の制憲議会(政府の意向を踏まえた選挙管理委員会が認める候補者のなかから選ばれた議員で構成される議会)を活用した独裁を口実に、アメリカの政府は金融機関に対しベネズエラの国債とその国営資源会社の社債の新規取引を禁止しました。

ドル建ての原油を輸出してきたベネズエラは、ドルの資金繰りが行き詰まるなか翌9月には原油価格の提示をドルから人民元へ変更。中露に続きベネズエラも、ペトロダラー体制(世界の原油取引をドル建てにすることで、ドル資金需要の創出を通じてその通貨価値を防衛する仕組み)を揺るがしているのです。

冒頭で紹介したトルコの事例と同様にアメリカとの溝が深まったベネズエラは、11月にロシアから債務支援(31.5億ドルの返済期限延長)を受けて東側へ走り、翌12月には豊富な資源に価値を裏づけられた仮想通貨ペトロの導入を決定し資金繰り改善への活路を見出しました

かつてドルを基軸としたブレトンウッズ体制(1944-1971)のもとでは、金本位制のもと法定通貨ドルの価値は実物資産の金(ゴールド)に裏づけられ、外国の中央銀行は35ドルあたり1オンス(31.1g)の金と交換できました。

一方、ベネズエラの仮想通貨ペトロを裏づける実物資産の原油のリスクは、通貨価値を測る尺度の金よりもいくらか大きいが、仮想通貨仲間のビットコインよりもはるかに小さい。政府公認のペトロは、その通貨価値が原油に裏づけられているため、従来の仮想通貨よりも通貨価値の高い安定性が期待できます。来たる2018年からの仮想通貨は、飛躍的に進歩していくかもしれません。

アナリスト工房 2017年12月11日(月)記事

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*)ビットコインの年初来の価格変化率は、数ある取引所のなかでビットフィネックス社(香港)の相場データに基づく算定値。なお、価格変化の基準としたドルの通貨価値を表すBloombergドル指数(BBDXY)は、年初来7.4%下落.(2017年12月8日時点)。

**)収益率の標準偏差でみたリスクは、2017年11月までの過去5年間の月末終値を用いた計算値を、√Tルール(リスクの大きさは時間の平方根に比例する)に基づき年率換算したもの。

***)期待リターンは、2017年11月までの過去5年間の月末終値を用いた計算値を12倍することで年率換算したもの。