トランプ相場、最初に戻りドル安へ
先物主導で国債から資金をたぐり寄せ回避した、金融危機への懸念再び
2017年3月27日(月)アナリスト工房
(2017年3月28日(火)編集)
効果を発揮できなかった時期はずれのFRB(米国中銀)の金融政策と、悪化に歯止めが掛からないアメリカの国際収支統計を受けて、ドル高・株高のトランプご祝儀相場がまもなく終了しようとしています。
1.拙速な米利上げが主要国の債券市場へマネー還流させ、ドルは急落
昨年11月、米大統領選でのトランプ氏の当確を受けて、市場はいったん債券高・ドル安・株安に大きく振れた直後、とくに理由もなく突然いっそう勢いよく反転。このとき、債券バブル崩壊の一方、ドル高・株高のご祝儀相場がはじまりました(*)。以後、ヘッジファンドなどの投資マネーは、日米欧の国債からドル通貨(ドル建ての現預金など)と株式へ流れたのです(トランプ相場の主役は債券バブル崩壊)。
いま当時を振り返ると、本来であれば債券高・ドル安・株安を招いたリーマンショックに続く”トランプショック"が生じる危機は、市場参加者のマネーの力で強引に退けられたと見受けられます。
なぜなら、ご祝儀相場の原動力となった債券バブル崩壊を引き起こしたのは、ヘッジファンドなどによる米国債先物の売り浴びせですからね。CFTC(米先物取引委員会)公表の建玉(未決済残高)に関するデータによると、投機筋が10年物米国債先物を昨年11月からショート(売り越し)に転じた後、今年2月にはその売り越し額が過去最高を更新しています。
しかし、製造業の競争力強化のためにドル安を望む本人(トランプ米大統領)の意向に反し、市場が本来とは正反対のご祝儀相場を演じ続けるのは難しい。今月、アメリカの拙速な金融政策がドル高・株高基調に終止符を打ちはじめました。15日、FRBは政策金利の引き上げ(0.5〜0.75%→0.75〜1%)を決定したのです。
今年のFRBは年3回の利上げを示唆してきましたが、今月はじめから政策決定に携わる中銀メンバーの年内の利上げに関する強気発言が相次いだため、市場では年4回の利上げ観測(3、6、9、12月)がいったん浮上しました。
一方、投機筋による10年物米国債先物の売り越し額は、2月末をピークに急速に縮小中。すでにショートを膨らませていたヘッジファンドなどは、利上げ回数増加への懸念を"売り材料の出尽くし"と受け止め、サッサと買い戻しに転じたのです(**)。結果、先物の買い戻しとともに10年物米国債の現物価格が底入れし(利回りが低下に転じ)、ドル通貨と株式に向かっていた投資マネーは日米欧の国債へ戻ってきています。
2.危機への懸念の根底には、巨額の米経常赤字。その改善が必要
続いて、今月21日公表された2016年の米経常収支は4,812億ドルの赤字。世界ワースト1のアメリカの経常赤字額が3年連続で悪化していることが、経済ファンダメンタル面からのドル安要因です。
貿易や利息・配当などでの国の稼ぎを表す経常収支は、アメリカの赤字拡大が日中独などの黒字拡大を物語ります。これらの黒字国は稼いだドルを為替市場で自国通貨に替える(円買い・ドル売り、元買い・ドル売り、ユーロ買い・ドル売りなど)ため、米経常収支の悪化はドル売り為替の増加を通じてドル安へ根強く作用するのです。
アメリカをかばう目的と見受けられる”トンデモ経済学"のなかには、「経常収支の赤字は資本収支の黒字(外国からの投資資金の流入など)で補われるため問題ない」との説があります。
しかし、投資資金は実行時に流入した資金が回収時には流出することから、万年経常赤字が資本黒字で実質的に補われるためには、外国からの投資が永久に続くことが前提です。稼げない国へ投資は、リターンが期待できず、いつまでも続けられません。たとえワースト1の赤字国が外国勢に対し半ば強制的に投資を促したとしても、その国が圧倒的な経済・軍事覇権をすでに失ったなか、外国からの十分な投資資金を将来にわたり徴収し続けるのは難しい。
ご祝儀相場の終わりとともに債券高・ドル安・株安に転じた市場が昨年回避したばかりの金融危機をこれから呼び戻すか否かにかかわらず大切なのは、基軸通貨国アメリカの経済ファンダメンタルを再建すること(巨額の経常赤字を減らしていくこと)です。
そのためには、安い労働コストを求めて製造拠点を海外(メキシコ、中国など)に移転のうえその製品を逆輸入する、悪しきビジネスモデルに終止符をうつことが、はじめの一歩と考えられます(アメリカ第1主義の狙いと経済効果)。
なお、目的の通貨防衛がままならず市場を混乱させる金融当局者の発言と、混乱に乗じた投資手法の奇策には、もう惑わされないよう気をつけましょう!
アナリスト工房 2017年3月27日(月)記事
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*)昨年11月9日の東京市場では、トランプ氏当確のニュースに一時、10年物米国債は利回り1.72%の水準まで価格上昇、ドル/円は101.15円まで円高進行、日経平均株価は16,112円まで急落。以後のご祝儀相場では一時、10年物米国債は利回り2.64%の水準まで価格急落(昨年12月)、ドル/円は118.66円まで円安進行(昨年12月)、日経平均株価は19,668円(今年3月2日)まで急伸した。
**)CFTC(米先物取引委員会)公表の建玉データによると、大口投機筋の10年物米国債先物の売り越し額は、今年2月28日の410千枚(1枚あたり額面100千ドル)をピークに、3月21日には100千枚まで急速に縮小中。