債務上限引き上げ不足はトランプの罠

注目指標の政府預金残高が語る、アメリカがすでに実質破たんした舞台裏

2021年10月11日(月)アナリスト工房

アメリカの連邦政府預金「TGA(Treasury General Account)」の残高は、財政破たんへの懸念が広まるなか、連邦政府の支払い能力が後いくらかでみたカントリーリスク指標としてよく活用されている。

米連邦政府の資金決済口座TGAを管理する財務省の日報(Daily Treasury Statement)によると、先週7日のTGA残高はわずか863億ドル。昨年7月に記録した過去最高額(一時1兆8305億ドル)のたった5%にすぎない。あわせて四半期毎のTGA残高の推移(20年12月末:1兆7286億ドル→21年3月末:1兆1220億ドル→6月末:8519億ドル→9月末:2152億ドル)を眺めると、超放漫財政のバイデン政権のアメリカは9月末から実質破たん状態とみてとれる。

TGAの預け先FRBの週報(B/Sのページ)に基づく

政府預金TGAがほぼ枯渇状態のなか米上院は先週7日、野党共和党トップのマコネル院内総務が提示した政府債務上限引き上げの妥協案(引き上げ額:4800億ドル、期間:12月3日まで)を本会議で賛成50、反対48で可決した。

ただし、共和党議員の賛成票はゼロ。トランプ第45代大統領の強い意向(下記引用)どおり、最終議決に臨んだ共和党上院議員たちは皆けっして妥協せず、本会議の前に議論を延々と長引かせるフィリバスター(議事妨害)を繰り返したときと同様に、債務上限引き上げ反対の強行姿勢を保った。

「共和党上院議員たちよ、ミッチ・マコネル(院内総務)を抱き込むことにより押し付けられようとしている、とんでもない妥協案に賛成票を投じてはならない。わが国のために強硬姿勢を続けよ。アメリカの人々はあなたたちの側にいる!」

トランプ第45代大統領(Oct 7th 2021)Gabおよび声明文


【原文】 Republican Senators, do not vote for this terrible deal being pushed by folding Mitch McConnell. Stand strong for our Country. The American people are with you!

今週12日には与党民主党が過半を占める米下院が再び召集され、債務上限引き上げ法案が民主党主導で速やかに可決し、バイデン大統領の署名を経て成立する見込み。米連邦政府の債務上限がいまの28.40兆ドルから28.88兆ドルへ引き上げられた後、アメリカが財政破たんしたときの責任は、バイデン政権と民主党議員たちがすべて負わされる状況と化してきた。そのとき彼らが退散しトランプ勢が復帰するシナリオも、十分にあり得るだろう。


そもそも、米連邦政府の資金決済口座TGA残高の足元の減少ペースが加速していることから、12月3日までの債務上限引き上げ額が4800億ドルでは到底足りそうにない。米国内で次々と浮上している大規模なインフラ開発が万が一中止となり財政支出が節減された場合でさえ、TGAを管理する米財務省の資金繰りはとても難しそうだ。

国内インフラ開発をぜひ実現したいバイデン政権のアメリカは、イスラエルとアフガニスタンに続き、中国の「一帯一路」へ走るかもしれない(アフガンを中国へ導く米イスラエル)。覇権国だったアメリカにとってそんな不名誉を断固阻止するためにも、トランプ復帰への動きがずいぶん活発化してきたようだ(トランプ前大統領が開いたアイオワの集会に過去最多の支持者)。

▼債務上限の期限が量的緩和縮小と重なるなか、米国債市場への影響は?

11月以降始まるテーパリング(米量的緩和の段階的縮小・終了)に伴い、FRBの米国債買い取り額が来年半ばにはゼロまで減少していくなか、アメリカの財政をまかなう米国債を消化することがいっそう困難と化す。

財政破たんリスクを嫌気した市場では先週、米10年債が一時1.617%と6月以来の高利回り水準まで価格急落した。今週から本格化する米国債入札(12日:10年債380億ドル、13日:30年債240億ドル、20日:20年債240億ドル など)は、入札が進むにつれて需給が悪化してゆくだろう。市場ではとくに20日以降の価格続落が顕著と想定される。10月末までに10年債利回りは1.9%台と、20年1月以来の水準に膨らむ可能性が高い。


カントリーリスク指標の政府預金TGA(Treasury General Account)の残高とともに米国債市場の需給および価格の動向は、目を離せない展開がしばらく続きそうだ。きっと、それらの最期のときまで。

アナリスト工房 2021年10月11日(月)記事