アフガンを中国へ導く米イスラエル

タリバン新政権を中国へ走らせる、アメリカ流の奇策がたっぷり展開

2021年9月8日(水)アナリスト工房

8月30日、在アフガン米軍の撤退が完了し、アフガニスタンは20年間にわたるアメリカの支配からようやく解放され独立を取り戻した。9月7日、アフガニスタンの暫定内閣の主要メンバーが発表された。ひとまず首相代行に選ばれたのは、旧タリバン政権(1996-2001)で副首相だったアフンド氏。だが、残念ながら彼は国連安保理の制裁リストに名を連ねている。

新政権の第1副首相代行は、アメリカや中国との外交交渉で手腕を発揮したタリバンのバラダール司令官に決まった。もしも、アフンド首相代行の国連制裁対象が大きな問題と化した場合には、やがてバラダール氏がアフガン新政権の正式な首相へ昇格する可能性が高い。


昨年の春、当時のトランプ政権がアフガン米軍の撤退を決めたとき、バラダール氏との電話会談に臨んだトランプ氏は、彼との関係が「非常に良好だ!」と評価していた。

いまもトランプ支持者が大半を占めるアメリカ軍人たちは、巨額の財政を費やす意義を失った海外撤退に積極姿勢を貫き通している。実際に、アフガン各地の米軍撤退跡には、極めて豊富なアメリカの兵器(ヘリコプター、装甲車、戦車、ロケットランチャー、マシンガンなど)がたっぷりの弾薬とともに残されていた。その総額850億ドル相当のタリバンへ置き土産は、米軍の「We Shall Never Return」の強い意思表示がみてとれる(アフガン陥落の舞台裏 嫌戦と一帯一路)。


今年8月23日、バーンズ米CIA長官が首都カブールで秘密会談に臨んだ相手もバラダール氏。実は、CIA管轄の米軍特殊部隊も、ペンタゴン(国防総省)の米軍と同様に、アフガン撤退にずいぶん積極的だった。

両者の会談を経て、26日のテロ組織IS(ダーイッシュ)によるカブール空港での自爆テロは、事前に現場の米軍およびタリバンの兵士たちに知らされていた。米軍が駐留を続ける口実づくりに長年利用してきたISは、米軍自身が始末する役割を担うことになった。


しかし、爆弾を身体に巻き空港のゲート付近に突入してきたISのテロリストを撃破するはずの米軍のドローンは、実際には爆弾炸裂前に飛んで来なかった。2発のIS自爆テロが生じた現場では、パニックに陥ったアメリカ兵たちがあちこちへ乱射しまくり、200人以上の人々(米軍協力者のアフガン人、タリバン、アメリカ兵など)が命を落とした(下記)。

「約170人のアフガニスタン人がこの事件で命を落とし、彼らの多くはパニックに陥ったアメリカ兵たちに撃たれ殺された。これらのアフガン人の多くは米軍に協力してきた。亡くなったアメリカ兵たちはヒーローなのか?」

Global Times胡編集長(Aug 30th 2021)Twitter

同僚の誤射により犠牲となったアメリカ兵13名の棺おけを迎えたときのバイデン米大統領は、自身の腕時計を何度もチラチラと眺めていた(Gold Star families blast Biden for checking watch during ceremony for fallen)。

国家のために海外で命を捧げた兵士への追悼よりも時間を気にする心ない最高指揮官のもと、海外撤退の意志を固めた米軍は、これからも世界各地から退く動きを積極的に続けていくだろう。なお、アメリカの軍人たちの多くが希望する新天地は、トランプ氏がつくった国境南側の壁付近での国境警備と壁拡張工事の任務である。

▼アフガンが向かう一帯一路には、すでに完成したイスラエルの新港

一方、アメリカが退いた後のアフガニスタンは、中国へ走ることがすでに決定済み。「カブール陥落」の8月15日以降、米財務省の制裁を受けて外貨準備の大半を占めるドル建て資産にアクセスできなくなったアフガンは、貿易など対外決済に米ドルを使わなくても済む東側の「非ドル通貨圏(中国、ロシア、トルコ、イランなど)」へ走るしかないのが実情。アメリカはアフガンを中国へ強く後押ししている。


7月28日、王毅外相とバラダール氏(いまのアフガニスン第1副首相代行)の外交会談が天津で開催され、王氏は新たなアフガンへの徹底的な経済支援(「一帯一路(21世紀のシルクロード)」へ招待など)を確約した。支援の目玉は、もちろん中国主導の公共事業「一帯一路(21世紀のシルクロード)」。中国ウイグル自治区およびパキスタンのインフラ開発プロジェクト「中パ回廊」へ、タリバン新政権のアフガンが参加する。

高速道路、鉄道、エネルギー・パイプラインなどがアフガニスタン国内に延びるのに伴い、従来620億ドルだった中パ回廊の事業規模がさらに拡大してゆくとともに、アフガン経済はやがて復興に転じるだろう。


中東での一帯一路の先行事例は、イスラエル最大の港を規模拡張とコンテナ自動化により処理能力を高め貿易拡大を目指す「ハイファ新港プロジェクト」。この17億ドル規模の中イスラエル共同プロジェクトは、アメリカの軍艦が定期的に寄港するハイファ港での建設作業が始まったのが2018年。アメリカの軍事政策に大きな影響を与える「軍産の重鎮イスラエル」は中国へ走り去った。予定どおり3年後に完成した新港の開港式が今年9月1日、オンラインで控えめに催された(Israel opens China-operated Haifa port to boost regional trade links)。


軍産の重鎮イスラエルが去って取り残されたアメリカは、今秋以降のテーパリング(中銀FRBは米国債などの買い取り縮小へ)に伴い、財政がいっそう苦しくなる。米国内の大規模なインフラ開発を実現するためには、イスラエルとアフガニスタンに続きアメリカも、中国へ走る必要に迫られるかもしれない。

アナリスト工房 2021年9月8日(水)記事