22年前半のFRB早期利上げを迫る市場
米債イールドカーブの珍現象は、インフレ退治をためらう米連銀への圧力
2021年11月8日(月)アナリスト工房
米連銀は3日、テーパリング(量的緩和の段階的縮小・終了)を今月中旬から始め来年6月中旬に終えると発表した。
いま月1200億ドルのペース(=米国債800億+住宅ローン債券400億)で実施中の量的緩和第4弾での金融商品買い取りは、11月中旬から月1050億ドル(=米国債700億+住宅ローン債券350億)へ、12月中旬から月900億ドル(=米国債600億+住宅ローン債券300億)へ次第に減ってゆき、やがて22年5月中旬から1カ月間の150億ドル(米国債100億+住宅ローン債券50億)を最後にきっぱり完了する。
テーパリング決定直後の5日公表された10月の米雇用統計の好結果(非農業部門の就業者数が前月比53.1万人増)を受けて、市場では米主要株価指数(NYダウ、SP500、Nasdaq総合)が軒並み最高値を更新しただけでなく、株価指数とは逆相関となりやすい米国債も大きく買われ利回りが急低下。資金逃避先であるはずの金(ゴールド)までが価格急上昇を熱演。余った投資マネーの典型的な行き先であるリバースレポ(米連銀が市場の金融機関から翌日物資金の担保付き借入)の残高が不自然に伸びた。
雇用統計発表直後の市場参加者たちは、現物だけでなく先物などデリバティブも駆使しながら、ありとあらゆる金融商品に投資マネーが向かう珍現象をたっぷり演出していた。
なかでも市場参加者たちの『最高の力作』は、米国債のイールドカーブ(満期までの期間別利回り)がアメリカ経済の先行き停滞を示唆する「フラット化(長い期間と短い期間の利回り差が著しく縮小)」および経済長期低迷を警告する「逆イールド(長い期間の利回りが短い期間の利回りを下回る状態)」だ。
とくに先週は、米2〜3年債と10〜30年債との間でフラット化が顕著だ。20年債と30年債との間での逆イールドは、10月28日から毎日観察されている(Daily Treasury Yield Curve Rates)。
このようにインフレ進行の危険に長くさらされる長期債が比較的短期の債券に対し利回り差縮小が顕著だったり利回り逆転する現象は、市場が経済先行きを懸念していることを意味する(利回りフラット化が急がす米利上げ)。過度のインフレ状態が数年間続くことによりアメリカ経済が長期低迷に陥る懸念がすっかり広まったなか、とくに数年物と30年物の利回り差の縮小が著しい。
30年にわたる長期低迷経済への強い警告を発するために、米国債市場の参加者たちは立ち上がった。米連銀のインフレ抑制への積極姿勢がほとんどみてとれないなか、市場はパウエルFRB議長の米連銀に対しサッサと利上げしインフレ退治せよと強く催促している(The Fed Lost Control of the Inflation Narrative)。
▼テーパリング終了前にゼロ金利を解除し、長期インフレ不況を回避せよ!
最新の市場データ(米30年債利回りが1.9%)と経済指標CPI(米消費者物価指数が前年同月比5.4%上昇)によると、アメリカ経済の名目成長率の長期見通しはわずか1.9%。そこから経済圧迫要因となるインフレ率5.4%を控除し、長期的な実質成長率の見通しは▲3.5%と低迷状態が続いてゆく(下記)。
米30年債利回り: 1.9% ・・・名目経済成長率の長期見通し
ー) インフレ率: 5.4% ・・・過度のインフレが経済を圧迫
30年実質利回り:▲3.5% ・・・実質マイナス成長の長期低迷へ
長期にわたるインフレ不況を避けるためには、テーパリング(量的緩和の段階的縮小・終了)での資金供給ストップだけでは不十分。いまのゼロ政策金利(0〜0.25%)の引き上げを通して、市場の資金調達コストを高めることにより資金需要を減少させることが必要不可欠だ。その旨を市場参加者たちがイールドカーブのフラット化や逆イールドをつくることにより、自ら申し出ている。答えは現場にあり!
『究極のフラットカーブ』、『至高の逆イールド』といった市場のとんでもない芸術作品が出没する前に、米連銀はいまのゼロ金利を解除する必要に強く迫られている。ゼロ金利状態をテーパリングが終わる来年6月中旬までダラダラと続けるのは難しい状況だ。米連銀は早期利上げに踏み切るしかないだろう。
今週から米長期債入札が本格化する(11月9日に10年債が390億ドル、10日に30年債が250億ドル、17日に20年債が230億ドル)。
最近の入札では10年債と30年債の堅調の一方で20年債の低調が続いていることから、とくに2〜3年債と30年債との間でのフラット化、20年債と30年債の間での逆イールドがますます顕著になるかもしれない。米債イールドカーブから目を離せない市況はしばらく続きそうだ。やれやれ・・・
アナリスト工房 2021年11月8日(月)記事