極端な米債逆イールド演出の舞台裏
指標価格が不自然に超割高な米国債の大量処分に励む米連銀、日本、中国
2022年11月28日(月)アナリスト工房
NY市場の参加者たちは7月以降、米国債の現物だけでなく先物などもたっぷり駆使しながら、指標10年物の利回り上昇を抑え価格を懸命に支えてきた。遊び心たっぷりな彼らの最高の力作は、米国債のイールドカーブ(満期までの期間別利回り)がアメリカ経済の長期低迷を示唆する過度の”逆イールド(中長期物の利回りが短期物の利回りを下回る状態)”。
米国債の2年物に対する10年物の利回り差は、7月上旬からマイナス状態が毎日観察され、先週25日には一時なんと▲78bp(10年物利回りが2年物利回りを0.78%下回る状態)。1981年以来の超逆イールドと化してしまった(図表)。
米財務省公表データに基づき作成
足元の米債逆イールドの主な特徴は、さまざまな期間の利回りのなかで1年物がいちばん高く、10年物が最も低いこと(上図)。ずいぶん奇抜な作品をつくった市場参加者たちは、「アメリカの利上げが約1年後まで続く」と示唆しながら、「価格が最も割高な10年物を中心に売却するなどして、米国債保有高を大幅に減らせ」とのメッセージを発信中とみてとれる。
早速、量的引き締めQT(中央銀行が過去の量的緩和で買い取った国債などを売却あるいは満期非継続により保有高を減らし、市場から資金回収する引き締め策)を実施中の米連銀FRBは、米債保有高をピーク(6月9日:5兆7714億ドル)の水準からすでに2361億ドル削減した(11月23日時点:週次公表される毎週水曜時点のB/S計上額に基づく)。
米債保有高No.1の発行国の中銀FRBが米債処分を本格的に進めるなか、外国勢の保有高トップ2の日本と中国は急いで追従するしかない。米財務省公表の最新データによると、日本は7-9月に米国債を1161億ドル削減し、9月末の米債保有高がピーク(21年12月:1兆3286億ドル)に対し早くも14.1%減少。
7-9月に米国債を342億ドル減らした中国は、9月末の米債保有高がピーク(13年11月:1兆3167億ドル)からすでになんと29.1%減。その間に、米連邦政府の債務残高はなんと79.7%激増。最大の貿易黒字国の稼ぎが米国債投資を通して巨額の双子の赤字を抱えるアメリカへキャッシュバックされる仕組みは、完全に崩壊済み。アメリカ合衆国の破たんは、ずいぶん近づいている可能性が濃厚。
今年10月以降、米ドル売りの為替介入をますます活発化した日本の通貨当局は、為替取引の相手へ支払うドル資金を賄うために、米国債をさらに手放し換金処分を加速している。
国際通貨制度が金本位制へ移行するとの観測が強まるなか、金1グラムあたり7800円の金連動トライアル(22年4月中旬-現在)は、ドル売り介入の効果も奏功し依然順調。金に対する円相場は、10月下旬の1ドルあたり一時151.94円と1990年7月以来の水準まで急速に円安進行したとき、ドル高・円安の悪影響を被らずに済む大きなメリットが見出された(下図)。
NY市場の金先物中心限月とドル円の終値に基づき作成
ロシアと一緒に金本位を推進中の中国は、すでに金1グラムあたり400元での金連動トライアル(22年3月上旬-6月下旬)をとても上手かつ順調に終え、7-9月には金300トンを爆買いし金準備をたっぷり積み増した。
10月以降も、中国通貨当局によるドル売り・元買い介入が頻繁に観測されていることから、大量の米国債が実物資産の金に次々と置き換わっている状況が伺い知れる(ゴールド爆買い観測 金本位の前兆か?)。
FRBおよび日中通貨当局に売り浴びせられている米国債は、市場で需給が著しく悪化中にもかかわらず、指標の10年物の利回りが異常に低い逆イールドのもと、値崩れせず価格を保ち続けている。そんな奇妙で極端なイールドカーブの演出に励むNY市場の参加者たちは、金本位制への覚悟を決めただけでなく、実は新たな通貨制度を強く推し進める政策的で有力なビッグプレイヤーと推察される。米ドル基軸制が終わる日も、ずいぶん近づいているかもしれない。
アナリスト工房 2022年11月28日(月)記事