米国のQE3終了を支える舞台裏
2014年9月10日(水)
前回までの「その他」のコーナーでは、日銀の国債買い取りによる金融緩和を長く続けた結果、財政破綻を招くとともに"預金封鎖"に至った、さきの終戦直後のわが国の歴史を紹介しました(「緩和策は続けるな」、「マンネリ緩和が招いた預金封鎖とは?」)。
現在の日米で実施中のQE(量的緩和)も、中央銀行が大量の金融商品(国債、証券化商品など)を買い取って資金供給する点で、70年前のわが国の事例と同様に危険な緩和策といえます。にもかかわらず、欧州のユーロ圏も来月からQEに踏み切る予定です。
今回からは、これらの先進主要国・地域のQEに関する動向と市場への影響を、その舞台裏の生々しい風景とともに取り上げていきます。
トップバッターは、リーマン・ショック(2008年9月:米国発の金融危機の発端)の後で最初にQEを始めた米国です。
FRB(米国の中央銀行)は、これまで次のように3度に分けて、米国債、MBS(リーマン・ショックの元凶となった住宅ローン証券化商品)など計3.9兆ドルの金融商品を市場で買い取り、市中へ資金供給を行ってきました。
【米国のQE(量的緩和)の規模】
・QE1(08年11月−10年6月):総額1.7兆ドル
・QE2(10年11月−11年6月):総額0.6兆ドル
・QE3(12年9月−14年10月):総額1.6兆ドル
歴史の教訓を踏まえ、FRBはQEを長く続けず何度か中断しながら慎重に実施中ですが、財政膨張にまったく歯止めが掛かりません。11年8月以降の米国は、デフォルト騒動を繰り返しています。
現在のQE3(量的緩和第3弾)は、今年1月から規模縮小し始め、来月終了の予定です。また来年半ばまでにFRBは、08年12月から続けているゼロ金利政策(政策金利0.00−0.25%)を解除し、利上げに踏み切るとの観測が強まっています。
にもかかわらず、足元の米国債10年物の利回りは2.50%(昨年末は3.03%)と低下しており、その価格はまずまず堅調です。
深刻な政府債務問題が未解決のまま先送りされており、しかも最大の買い手(FRB)を失ってゆくともに価格下落への要因となる利上げ観測のなか、いったいなぜ米国債相場は底堅いのでしょうか?
FRBに代わり海外勢が米国債を買い支えているからです。国別の米国債保有残高の推移を眺めてみましょう(下図:*)。
まず今年1−3月の3カ月間は、QE3縮小に踏み切ったFRBが1,097億ドル増(昨年10−12月は1,390億ドル増)と伸び悩む一方、"ベルギー"は1,246億ドル増と首位へ浮上しました。
しかし、海外の保有増加額の8割を占めるその実態は、ベルギー勢ではありません。同国にとってGDPに匹敵する額の海外証券投資を積み増すのは、大きな無理があるからです。
ベルギーには証券決済機関"ユーロクリア"があることと、同期間の中国の外貨準備高の変化(1,300億ドル増)から、中国がベルギーのユーロクリアの口座を利用して米国債を積み増したと推測されます(「米国債の"買い手No.1ベルギー"とは?」)。
続いて4−6月は、"ベルギー"こと中国が米国債を一部取り崩す(173億ドル減)なか、QE3をさらに縮小したFRB(826億ドル増)の次にその保有額を伸ばしたのは日本(193億ドル増)です。
とはいえ、さきの震災後は貿易赤字が続き外国から稼いでいないわが国は、中国とFRBに代わり米国債を買い支える資力はありません。これまで蓄えてきた年金基金などのマネーを振り向けるしかなく、とんでもない国際的役割を背負わされていると見受けられます。
しかも、足元の対外証券投資と為替市場の動きから、日本が米国債をいっそう積極的に取得している状況が伺い知れます。
わが国の中長期債への対外証券投資は先月まで4カ月連続で計592億ドルも純増しており、その投資対象は国債市場の規模からもちろん米国債が中心です。
また、1−3月に中国の米国債購入に伴うドル買い・人民元売り介入により元が久々に反落したこと(「中国の為替介入と人民元改革の狙い」)と同様に、足元の106円台までの急速な円安進行は日本からの米国債投資の急増と整合的です。
以上、今春までベルギーの口座を通じて米国債を買い支えていた中国が突然はしごを外したため、GW頃からは日本が肩代わりさせられていると推察されます。
とはいえ、いまのわが国には中国とFRBの肩代わりを続けてゆく経済力がないため、たとえ将来の年金制度を犠牲にしたとしても"焼け石に水"です。
なお、米国の政府債務上限を必要なだけ引き上げられるのは来年3月15日までであり、以降は恒例のデフォルト騒動が想定されます。
ちなみに足元の政府債務残高(17.7兆ドル)は、11年8月のデフォルト騒動時から3年間でなんと24%も増えているのです。利回りがわずか2%台半ばの米国債投資は、抱えるデフォルト・リスクと為替リスクにまったく見合いません。
そんな最後のババをつかまされているわが国は、長く続けているQE(日銀の量的緩和)をサッサと終えないと、まもなく危険ゾーンへの突入が懸念されます。
「サッサと終えたい日本の量的緩和」へ続く
株式会社アナリスト工房
-----------------------------------------------------------------
*)FRBの米国債保有残高はその公表するB/Sの計上額(月末日を含む1週間の平残)、海外保有国分は米財務省公表の月末残高(Major Foreign Holders of Treasury Securities:2014年8月15日更新)に基づく。