対外証券投資(市場を支える日本勢)

2013年12月3日(火)

「赤信号 みんなで渡れば 怖くない」

-ビートたけし氏の1979年の漫才ネタ:当時の流行語-

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今、日本の対外証券投資に関する統計(対象:日本から海外への株式・債券投資)が面白い。

金融機関と機関投資家の報告に基づくその統計データから、わが国がドルと米国債を懸命に買い支えている状況が、生々しく伝わってくるからだ。

財務省が11月28日に更新した「対外・対内証券投資の推移」によると、10月第2週から11月第4週(10/6-11/23)の7週間で、日本から海外の中長期債への投資額は5.2兆円の純増(図表)。昨秋にアベノミクスが始まって以来、最大の資金流出額となった。

中長期債投資の対象は、もちろん発行額世界一の米国債が中心である。

わが国の投資家は、そのドル建ての債券を購入するために、円をドルに替える(為替で円売り・ドル買いを行なう)。その需要に伴い、ドル/円(円相場)は7週間で3.8円(97.48円→101.27円)も上昇した。

さらに、翌11月第5週(11/24-11/30)のドル/円は102円台まで急騰している。

12月5日公表予定のその週の統計データでは、海外への中長期債投資に伴う資金流出額がどれだけ拡大しているかが注目される。

日本からの対外証券投資は、ドル価格を押し上げる役割を果たしているが、投資対象の米国債を支える効果が足元で薄れてきている。

米国デフォルト騒動がクライマックスを迎えた10月第3週と翌週(10/13-10/26)は、中長期債への資金流出が計2.4兆円のピークに達した。信用リスクの赤信号をみんなで渡ったことが一時的に奏功し、米国債の価格は大きく反発した(利回りが顕著に低下:2.69%→2.51%)。

しかしその後は、わが国からの資金流出が続いているにもかかわらず、足元の米国債価格は上値の重い展開となっている。なぜか?

その最大の原因は、米国の債務問題が全く解決されていない点にある。

先日のデフォルト騒動は、緊縮財政派の共和党がオバマケア(国民皆保険)を推進する民主党に妥協し、政府債務上限を来年2月7日分まで引き上げることで沈静化した。

しかし、その場しのぎでの問題先送りに過ぎず、米国リスクの赤信号は灯ったままだ。

3月以降のタイムリミットまでに債務上限をさらに引き上げられなかった場合には、国家デフォルトに陥る。引き上げに成功し再び短期間先送りできたとしても、決して赤信号は消えない。

11月20日、中国人民銀行(中央銀行)の易綱副総裁は「(米国債などドル建てでの運用が主体の)外貨準備をこれ以上蓄えても中国の国益にならない」と、ドル建て資産の保有に限度を設ける方向性を示した。

中国は人民元売り・ドル買い介入で得たドル資金など外貨準備の運用のために、米国債を1.3兆ドルも保有している(2013年9月末時点)。

今後その額が頭打ちとなった場合、膨張する米国の財政を支えるための負担は、次いで保有額の多い日本(2013年9月末時点:1.2兆ドル)の肩にいっそう重くのしかかるだろう。

またFRB(米国の中央銀行)は、QE3(量的緩和の第3弾:2012年9月-)での月々450億ドルの米国債買取りによる市中への資金供給を、来年半ばまでに終わらせる予定でいる。

当事国のその中央銀行は、現在は米国債の最大の買い手とならざるをえない立場にある。しかし足元の市場では、来年3月頃から買取り額を縮小してゆくとの見方が多い。

GDPベスト3の中で1国だけ取り残されても、わが国は赤信号を渡り続ける覚悟があるのだろうか。

株式会社アナリスト工房