資金が尽きたNYの年金基金の警告

イカレポンチな基金運営が招いた年金破たんドミノのはじまり

2017年3月10日(金)アナリスト工房

(2017年3月13日(月)編集)

いまも"ポンチスキーム(ネズミ講)"の被害者が後を絶たない。出資金詐欺、マルチ商法などポンチスキームとは、後の加入者から集めたお金を前の加入者への支払いに充てる仕組みをもつ、詐欺まがいの商品あるいは取引です。

加入者数が増えているときは、大勢の新規加入者から集められたお金の一部が組織を通じて既存の加入者を潤す。一方で加入の伸び悩みが続くと、やがてお金が回らなくなり、組織も加入者も行き詰まってしまいます。

すなわち、「加入者が永久に増え続けていく」といった非現実的な前提のもとでしか成り立たない自転車操業が、ポンチスキームの正体といえましょう。

1.ついに年金基金破たん第1号。受給者への代払額はわずか3分の1

そんなとんでもないポンチスキームのなかには、多くの国々や職場で加入が義務づけられているものもあるから始末が悪い。それは、現役世代が引退後の高齢者を支える"世代間扶養方式"の確定給付年金です。

この一般的なタイプの年金は、後の加入者のお金が基金を通じて前の加入者へ流れる仕組みも、加入が伸び悩み続けると基金が行き詰まる欠点も、ポンチスキームと同じですからね。

アメリカでは昨年4月、中西部と南部のトラック運転手40万人が加入する年金基金CSPF(セントラルステーツ年金基金)は、2025年までに支払不能に陥る見込みとなりました。リーマンショック時に巨額の投資損失が生じたうえ、年金受給者の増加の一方で現役加入者の減少が、この全米最大級の基金が行き詰まった原因です。

CSPFは加入者のうち25万に対し平均23%の受給額削減を提案しましたが、米財務省はその削減案を却下。救済資金が投入されることもなく、いまも8年以内に基金が破たんする状況はまったく改善されていません(行きづまった米国年金基金の教訓)。

今年2月、NY市とロングアイランドのトラック運転手が加入する年金基金Local 707(チームスター707地区年金基金)は、CSPFに先立ち支払不能に陥り破たんしました。受給者への支払削減案が米財務省に退けられた結果、Local 707はアメリカの年金基金のなかで最初に資金が底をついてしまったのです。

早速、Local 707の年金受給者4,000人に対し、支払保証を行う政府系機関PBGC(年金給付保証公社)が代払いに着手しています。とはいえ、PBGCの代払額は元の年金額のわずか3分の1程度にすぎない(下記)。

「昨年2月、レイ・ナルバエスさん(77)は、トラック運転手時代の仲間4,000人と同様に、707地区にある元職場から手紙を受け取った。それによると、破たんの瀬戸際にある基金を存続させるためには、彼の毎月の年金額は3,500ドルから2,000ドルへ3分の1以上カットする緊急措置が必要とのことだった。

(中略)しかし、その措置は不発に終わる。長期にわたる危機に瀕した後、707地区の年金基金は今年2月ついに破たん。お金はもう残っていない。年金支払の保証業務を担う年金給付保証公社(PBGC)は、加入期間30年の者に対する年間支払額が12,000ドル程度。いまのナルバエスさんへの支払額は、税前で毎月1,170ドルにすぎない。

元トラック運転手エドワード・ヘルナンデスさん(67)毎月2,422ドルの年金額は、昨年1,465ドルへの減額提示のうえ、今月ついに902ドルへ減らされてしまった。連邦税を差し引くと721ドルだが、さらに州税と市税が徴収される」

NYデイリーニュース『年金基金が底をつき生活に苦しむNYの老人』Feb.26, 2017

2.破たんドミノの影響は2百万人へ。国の危機に至る前に解決を!

破たんした年金基金に代わり受給者への支払いを手がけるPBGCは、いまではLocal 707の他にも70の基金(ニュージャージー州のLocal 641、Local 560など)の破たん案件を抱えています(3月1日公表)。破たん予備軍も含めると、危うい基金の数は200。年金代払いが必要な受給者は、やがて1.5〜2百万人に達する見込み

しかし、PBGCの代払いの原資は、加入者の雇用主から徴収したわずかな保証料にすぎない。このままでは、年金基金だけでなくその後始末を担うPBGCも、2025年までに資金が尽きる可能性が高い。また、同じ時期に基金が支払不能に陥る予定のCSPFの年金受給者は、代払いをまったく受けられないまま受給額ゼロとなるかもしれません。

なお、わが国でいえば生活保護に相当するアメリカの”フードスタンプ”では、食品購入のための金券が毎月1人あたり平均125ドル配布されています(2016年11月時点)。とはいえ、当初の年金額の数%程度での生計を2百万人のお年寄りに強いるのは、現実的ではない。彼らのなかには、職を失った子・孫を扶養している者も多く目立つ。

年金基金とその保証機関が破たんしたときの損失は、最終的には国(およびその納税者)が被ることになります。たとえ年金受給者が破たん損失を直接被った場合でも、彼らへの社会保障費の増加を通じて、結局は国の負担ですからね。外国からの国債投資マネーが集まるアメリカの場合には、損失は外国人投資家にも及ぶかもしれません。

本件でいちばん鼻につくのは、やむをえず受給者への支払削減を申し出た年金基金に対し、米財務省がその削減案を却下したのにとどまり問題解決を先送りしたことです。結果、今回の主役Local 707はすでに資金が尽き破たんしましたが、年金代払いを担うPBGCも米国最大級の年金基金CSPFもまだ存続中。

いまのうちに国は、受給者への支給と代払の額の落とし所を探りながら、問題の抜本的解決に取り組む必要があります。

その際は、長期停滞経済のもと年金マネーの運用益が期待できない実態、年金の仕組みがポンチスキームと同様に加入が伸び悩むと続かない現実を直視することが大切。速やかに改善されない限り、老後の生計を支える制度だけでなくその国の将来はない!

アナリスト工房 2017年3月10日(金)記事