銀行の決算書1(運用・調達をみる)
2014年6月25日(水)
前回(P/Lの国際比較)は、決算書のページのなかで決算発表時に最も注目されるP/L(損益計算書)について、わが国で急増している海外会計基準(IFRSと米国基準)のものの見方を取り上げました。
会計基準によりP/Lのつくりはさまざまですが、実は同じ会計基準のもとでも一部の業界には異質なP/Lが存在します。なかでも社数が多いのは銀行業界です。
決算書が異質なために業績が分かりづらいと、会社の株価は安く据え置かれる傾向がみられます。
東証1部の上場企業全体のPBR(株価純資産倍率:株式時価総額/自己資本)が1.3倍に対し、銀行業界のそれはわずか0.7倍(2014年5月末時点:東証の公表資料に基づく)と著しく株価割安です。
このような状態が長期にわたり続いており、銀行は市場で正当に評価されていません。そこで今回は、その業界の決算書の見方を取り上げます。
以下の題材は、銀行業界のなかで銘柄数の最も多い地方銀行です。
そのP/Lの話の前に、そこに描かれる「銀行の儲かる仕組み」をB/S(貸借対照表)の構造に沿って簡単に説明しましょう。
銀行ビジネスの基本は、預金で調達したお金を貸出金(ローン)と有価証券で運用して稼ぐことです。
預金は、銀行にお金を預ける者にとっては運用する資産ですが、逆にそれを預かる銀行からみれば調達手段としての有利子負債です。銀行のB/Sの負債は、個人・法人顧客などから集めた預金が大部分を占めています。
わが国の"ゼロ金利政策(2010年10月−)"のもと、預金の利回りは限りなくゼロに近い状態が長く続いており、調達コストが極めて安く済む点が銀行業界の大きな強みです。
一方、銀行の資産のシェアNo.1は、法人への運転資金や設備資金の融資、個人向けの住宅ローンなどの貸出金です。いずれもお金を借りる法人・個人顧客の有利子負債(借入金)ですが、資金の貸し手の銀行にとっては運用資産となります。
貸出金の利回りはけっしてゼロでなく、預金よりもいくらか高水準です。なぜなら、ゼロ金利の恩恵が受けられるのは、その政策金利が反映される"コール市場"に参加する金融機関だけだからです。
ここで、成熟国ニッポンでは顧客の借入需要が不足しているため、銀行の貸出額は預金額をはるかに下回ります。預金で調達したお金のうち貸出へ回せずに余った額を寝かせておくと、その運用利回りが得られずもったいないですね。
そこで、お金の借りる顧客がいなくてもできるもう1つの運用手段として、債券・株式など有価証券が活用されています。貸出金(上記)と有価証券が、銀行の資産の大部分を占めます。
預金者のお金お預かる銀行の有価証券の運用は、国債など高格付けの債券が中心の"ローリスク型"です。"ローリスク・ローリターン"のとおり、有価証券の運用利回りは格付けの比較的低い中堅・中小企業向けが主体の貸出金よりも低水準となります。
以上、預金で調達したお金を貸出金と有価証券で運用し、運用と調達の利回り差(スプレッド)を稼ぐことが、銀行の儲かる仕組みです。
南九州のとある地方銀行の例(図表)を紹介しましょう。
2014/3期(2013年度)の鹿児島銀行は、預金の調達利回りが0.03%。運用利回りは、貸出金1.56%、有価証券0.92%を金額で加重平均して1.36%。よって、儲けの尺度を表す利回り差は1.33%です。金融緩和の影響を受けて貸出金利が低下傾向のなか、利回り差は前の期(1.39%)からいくらか縮小しました(*)。
とはいえ、同行は太陽光発電・医療介護の分野の融資、県内と隣の県の住宅ローンなどの案件に注力し、貸出金残高は前の期に対し5%も伸長。利回り差の縮小に伴う儲けへの影響は、貸出金のボリューム拡大によりある程度カバーされています。
結果、同行の2014/3期の経常利益、当期純利益は前の期に対しそれぞれ5%増、7%増。金融緩和の悪影響を考慮すると、まずまずの業績伸長です。
これらの利益指標は、銀行業界のP/Lではどのように計算されるのでしょうか?
「銀行の決算書2(P/Lと業務純益)」へ続く
株式会社アナリスト工房
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*)預金の調達利回り、貸出金・有価証券の運用利回りは、鹿児島銀行の2014/3期のIR資料に基づく。