ゼロ長期金利は緩和終了への布石

2016年9月26日(月)アナリスト工房

一般に、金利の水準が決まる最も大きな要因は、1年以内の短期金利が中央銀行の政策金利、1年超の長期金利(10年物国債利回り)が債券市場の需給です。

金融政策を担う中央銀行は、民間金融機関との資金貸借に適用する翌日物金利の調節を通じて、短期金利の水準をコントロールしています。一方、国債発行額No.1の10年物が対象の長期金利は、国の資金調達や投資家の運用のニーズを反映し市場メカニズムに基づき決まるため、これまで金融政策の対象外でした。

ところが今般、わが国の中央銀行は、世界で初めて長期金利水準のコントロールに挑みます

1.短期マイナス・長期ゼロの金利曲線が量の呪縛を解き、日本は出口へ

今月21日の金融政策決定会合の後、日銀は2013年4月に本格化してからの金融緩和の総括と同時に、ゼロ長期金利を骨子とする新たな金融政策の枠組みを公表しました(主な内容は次の2点)。

長期金利(10年物国債利回り)がゼロ%程度で推移するよう、日銀は国債の買い取りを続ける。国債の買い取り額は、今後はゼロ長期金利が実現するよう運営していく。

・日銀当座預金(民間金融機関の日銀への預金)に適用される短期金利は、これまでのマイナス0.1%の水準のまま据え置く。

上記1点めは、いくつかの緩和手段のなかで中心的な役割を担ってきた量的緩和(中央銀行が国債などを買い取ることにより市場へ資金供給する緩和策)の規模を縮小することが可能となったことを意味します。

量的緩和は、これまで日銀の国債保有高が年80兆円のペースで増加するよう実施されてきましたが、今後はその金額縛りがなくなります。

しかも、長期金利の誘導目標が本件公表前の市場実勢(マイナス金利政策が始まった今年3月から公表前日までの半年間はマイナス水準)よりもやや高水準(債券価格はマイナス長期金利時よりもやや安い水準)なので、量的緩和で買い取るべき国債の額がこれまでよりも少なく済む効果が期待できるのです。

2点めの短期金利(日銀当座預金の適用金利)をマイナスのまま据え置いたことは、民間金融機関のマイナス金利政策への猛反発がいっそう高まるのを抑えるとともに、短期金利よりもいくらか高い水準で決まる傾向をもつ長期金利が大きく跳ね上がる危険を防ぐための措置とみてとれます。

以上2点がわが国の金融緩和の総括(これまでの成果を評価するとともに失敗を反省のうえで締めくくること)と同時に公表されたことは、最終局面に入った緩和を長期金利高騰の副作用を抑えながら縮小・終了していく方向性が示されたと解釈できます

これまで量的緩和で市場に供給されるマネーの一部が海外金融商品(米国債など)へ向かうことで、為替は円安・ドル高を演出してきました。しかし、緩和が出口(縮小・終了)を迎える今後は、マネーとともに為替が元の水準へ巻き戻されていくと想定されます。

よって、今般の日銀の出口戦略は円高・ドル安への要因なのです。

2.舞台裏には、いち早く量的限界を迎える欧州。とり残される米国の結末は?

これまでの本格的な量的緩和で日銀は、政府債務残高の増加額のなんと4.1倍のペースで、政府債務をまかなう国債の保有高を増やしてきました(2013年4月-2016年6月)。

4.1倍の財政ファイナンス(発行される国債の大半を中央銀行が引き受けること)は、緩和に伴い市場へ供給されるマネーがわが国よりもはるかに多額の政府債務を抱える国(アメリカ)を買い支えていることを物語ります。

このままでは来年半ばに国債市場での売り物が尽き、わが国の量的緩和が限界となる見込み。そこで、市場の混乱を未然に防ぐために、日銀は緩和の出口戦略をあらかじめ示唆しておく必要があったのです。

わが国が緩和の出口に舵を切った舞台裏には、緩和規模No.1のECB(いま月800億ユーロの量的緩和を実施中の欧州中銀)の量的緩和が年内に限界を迎える公算があります。とくにECBの量的緩和で買い取り額が最も多いドイツ国債は、今年11月に市場の売り物が付き、一足先に限界となる見込み。

米国債とその通貨ドルをいちばん買い支えてきたECBの大規模緩和が続けられなくなる来年の年明けからは、主要先進国のなかで日銀だけが緩和を続けても焼け石に水。そもそも今年になってからは、日欧ともに緩和が手づまりとなり、アメリカのためのドル高誘導がままならないのが実態です(手づまりの日銀とECBの金融緩和)。

以上、技術的に続行不可能でしかも意義・効果も失せた金融緩和は、日欧ともに出口へ向かうのが至極妥当の選択といえましょう。

一方、支えの両腕を失うアメリカは、通貨防衛のために年内には再利上げする必要に迫られています。

しかし、FRB(米国中銀)が2014年10月までの量的緩和で買い取った米国債と証券化商品の計3.7兆ドルを全額抱え込んでいる超緩和状態のままでは、利上げで引き締めてもドルの防衛効果は発揮できない。今年11月あるいは12月にFRBが再利上げに踏み切っても、昨年12月の利上げ後と同様に、ドルの下落に歯止めをかけるのが難しい状況なのです(米国のなんちゃって金融引き締め)。

通貨防衛が失敗に終わったとき、ドル急落だけにとどまらず、かつての両腕の協力が得られなくなったドル中心の通貨体制に最後の審判が下されましょう。

アナリスト工房 2016年9月26日(月)記事