キエフ陥落の舞台裏 世界を退く米国
政府債務上限がヤバいアメリカ、軍事覇権をロシアに譲りウクライナ撤退
2022年2月28日(月)アナリスト工房
「ウクライナから避難(亡命)させてやろうか?」とのアメリカからの申し出をきっぱり断ったゼレンスキー大統領は、ロシアのプーチン大統領の提案どおり停戦および平和への協議に応じるしかなかった。
先週24日にウクライナ侵攻を始めたロシア軍は、2日後には首都キエフに到達。以降、キエフ郊外ではウクライナの軍隊および親米武装勢力との首都攻防戦が展開中。しかし、すでにウクライナ軍を熱心に支援・指揮してきた在キエフ米大使館は閉鎖済み。米欧のNATO(北大西洋条約機構)がウクライナへの派兵を拒み続けるなか、ハシゴを外されたウクライナの米傀儡政権には、ロシアにはほぼ無条件で降伏する選択肢しか残っていないとみてとれる。
昨年8月の「アフガン陥落」のとき米軍が撤退した跡地には、なんと総額850億ドル相当のアメリカの兵器(ヘリコプター、装甲車、戦車、ロケットランチャー、マシンガンなど)が、まるでタリバン新政権への豪華な「置き土産」として、たっぷりの弾薬とともに残されていた(アフガン陥落の舞台裏 嫌戦と一帯一路、アフガンを中国へ導く米イスラエル)。
一方、今回アメリカが去ったウクライナには、めぼしい置き土産が見当たらない。ただ、人口の半分以上を占める親米住民には、アメリカに捨てられ東側へ導かれてゆく無念だけがむなしく残った。
趙放漫財政のアメリカが再びウクライナにの「宗主国」となる余地は、もう残っていない。昨年12月半ば、米連邦政府の債務残高の法定上限は、来年初めまでの財政をまかなえるよう、大幅に2.5兆ドル引き上げられた(28.88兆ドル→31.38兆ドル)。しかし、足元の2月24日の政府債務残高は30.13兆ドルと、わずか約2カ月で上限引き上げ額の半分を消化してしまった。このままでは、今年5月には引き上げ後の新たな上限(31.38兆ドル)に達してしまう。
3月上旬には、連銀FRBが米国債を買い取って引き受ける「量的緩和」が終了予定。まもなく財政が空前の苦境に陥るアメリカは、覇権国として世界を走り続けるのが極めて困難。バイデン政権のアメリカは、軍事覇権をロシアに任せ経済覇権を中国に譲りながら、世界各地から退く動きを急いで本格化している。
▼経済覇権を譲られた中国がロシア産ガスを引き受け、米国は撤退完了!
北京五輪開会式の日に開催された中ロ首脳会談は、NATOのさらなる拡大(とくにウクライナの加盟)に反対する共同声明を打ち出すとともに、年100億立方メートルのロシア産の天然ガスを中国へ追加供給することを合意した。ロシアがSWIFT(米欧主導の国際資金決済システム)から除外され欧州へのガス輸出がままならなくなった場合への対策は、あらかじめ万全とみてとれる。
また、中国がロシア産ガスを引き受けることにより、ドイツからウクライナへ供給予定のロケットランチャーなど大量の武器がウクライナの親米武装勢力に行き渡りロシア軍が泥沼の苦戦を強いられる懸念が生じたときは、ロシアが欧州へガス供給停止の厳しい対抗措置に踏み切りやすくなった。これらの武器は、矛先がロシア兵に向けられないよう、ウクライナへ到着せず途中で没収される可能性が濃厚。
プーチン大統領は1月下旬、キューバ、ベネズエラ首脳との各電話会談で国際問題での戦略的協力を取り付けた。以降、NATOにウクライナが加盟した場合には、キューバへ核ミサイルを運び込もうとした旧ソ連(いまのロシア)と海上封鎖により核運び込みを阻止したアメリカとの間で核戦争の寸前まで緊張した「キューバ危機(1962年)」が、今回は2倍の規模で再来するとの懸念が世界に広まった。
中南米の国々のロシアへの協力は、アメリカが再びウクライナへ関与しないようけん制しながら、NATO拡大阻止への効果を発揮している。
「戦争というのは、『勝つ』ということを目的にする以上、勝つべき態勢をととのえるのが当然のことであり、(中略)それを可能にするためには外交をもって敵をだまして時間かせぎをし、あるいは第3勢力に甘い餌を与えて同盟にひきずりこむなどの政治的苦心をしなければならない。そのあとおこなわれる戦闘というのは、単にその結果にすぎない」
司馬遼太郎『坂の上の雲』文春文庫(1999)
2月27日、プーチン大統領はロシア軍に核抑止警戒を発令。親ロの隣国ベラルーシの国民投票では同日、非核国としての地位を放棄することを決定した。一方、すでに原発をロシア軍に占拠されたウクライナ軍は、核兵器に必要な原材料が入手できず非核国のまま。首都キエフがロシア軍にすっかり囲まれたなか、ウクライナはロシアとの停戦および平和への協議を28日に再開予定。その会場はベラルーシとの国境沿い。
前回26日の協議は、「降伏せよ!」と強引に迫るロシア停戦交渉団の態度に、ウクライナ側が腹を立て物別れに終わった。今回も合意に至らないかもしれないが、米大使館が去りNATOに加盟させてもらえないウクライナは、やはり最終的にはほぼ無条件での降伏を受け入れるしかなさそうだ。以後のウクライナは、国土(ロシアが併合済みのクリミア、および独立承認済みのドネツクとルガンスクを除く)の大半が非武装化されてゆくだろう。
アナリスト工房 2022年2月28日(月)記事